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 9月26日(火)、キネマ旬報シアターにて。
 多くのユダヤ人を絶滅収容所へと送り、彼らの命を奪っていったアドルフ・アイヒマンを、第二次世界大戦後のドイツで裁くために奔走する検事長のフリッツ・バウアーの物語が、過去と向き合わねばドイツの前進もないとする彼の信念に呼応するかのように、奇を衒わない誠実な演出で展開されてゆく。
 「狩りは?」と元親衛隊の部下に訊かれた時、「する。動物以外の獲物をな」と挑むような眼光で返答するシーンや、元親衛隊少尉である連邦検事局のゲープハルトに捜査を妨害されて、「私はこの国の敵なのか?」と力を落として階段に座り込んでしまう場面で、バウアーの強さと弱さを描くと同時に、戦後のドイツでもナチスの生き残りが国家の要職に就いていた事実も明らかにしており、“くたばれ ユダヤ人!”と書かれた脅迫状が自宅に届き、狼狽するバウアーの姿が映し出された時、反ユダヤ主義の根深さも感じさせるのである。
 アイヒマンがブエノスアイレスに潜伏している証拠を見つけ出すところはなかなかサスペンスフルであり、もうひとつのテーマである「同性愛」が徐々に物語に絡んでくる構成は驚いたが、それもやはり戦後のドイツを描くためのキーワードだ。
 作り手の実直な姿勢が少々堅苦しい感じがしないでもないが、アイヒマンの身柄拘束への執念は、強制収容所からの釈放と引き換えにナチスへの服従を誓約してしまった過去への後悔と己の尊厳を賭けた闘いでもあったことが、「暴政に服従してはいかんのだ」というバウアーの言葉に熱気を与えており、苦い結末を迎えても再び立ち上がろうとする不屈の精神に圧倒される力強いメッセージを放つ作品となった。
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